「トスカーナの幸せレシピ」あらすじ&ネタバレ感想。アスペルガーの少年と怒りっぽいオヤジの化学反応。

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Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

「トスカーナの幸せレシピ」予告編ムービー

映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編

「トスカーナの幸せレシピ」あらすじ

あることから暴力沙汰で刑務所に入ることになった元一流シェフのアルトゥーロ。
出所した彼は、社会奉仕活動として自立支援施設に通うことを言い渡された。

施設で料理を教えることになったアルトゥーロは、そこでアスペルガー症候群の若者・グイドと出会う。
驚くことに、彼はスープを味見しただけで調合された素材を完璧に当ててしまう舌の持ち主だった。

グイドは自立への一歩として、トスカーナで開催される料理人コンテストへ出場することに。
アルトゥーロも付き添い人として、しぶしぶ参加を決意する。

「トスカーナの幸せレシピ」感想

Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

元一流シェフのアルトゥーロと、アスペルガー症候群のグイドが料理を通じて心を繋げるバディムービー。
かつて傷害罪でムショに入れられたアルトゥーロは、言葉をオブラートに包むことを知らない激情家で、怒りっぽい性格。対してグイドは言葉を全てストレートに受け止めてしまうという純粋な心の持ち主。この絵に描いたような凸凹コンビのやりとりは、めちゃくちゃにハートウォーミングです。

ただ、この二人を繋ぐ大事な要素である料理に関しては、細かく描写されていないのが残念なところ。アルトゥーロの一流ぶりとグイドの天才ぶりは見ていてなんとなく感じるけど、その詳しい内容については分からないんですよね。そのぶん登場人物たちの心情にスポットが当てられているので、そこだけで満足できる人もいるとは思います。
アスペルガー症候群・一流と天才のコンビ・イタリア料理という目を引くキーワードの数々から自然と期待を高めてしまいましたが、残念ながらその期待は上回らなかったかなぁというのが、今作の正直な感想です。

「トスカーナの幸せレシピ」グイドの境遇

Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

発達障害の一つである自閉症。障害の重さや知的能力の発達具合で区別された様々な種類の自閉症を総称して、自閉症スペクトラムと言います。アスペルガー症候群は自閉症スペクトラムのうちの一つで、コミュニケーションが円滑にできない、強いこだわりがある、という特徴が見られます。

グイドの独特な気質から引き出される奇想天外な行動は、今作の見どころの一つですが、その行動の数々は、アスペルガー症候群の典型的な症例とも言えるんですね。

作中では、グイドは寝る前にスマホや手帳、ペンなどを決められた順番通りに、ズレなく配置するシーンがあります。それを見たアルトゥーロがわざと配置をズラすと、違和感を覚えたグイドがスッと起きて丁寧に置き直してまた寝る。思わずフフッと笑っちゃうシーンです。こういう変なこだわりって、僕は子どもの頃に置いてきちゃった気がして変な懐かしさを感じました。
そのほか、街の売春婦に興味津々だったりコンテストガールのふるまいにいちいち好意を感じたりと、純心さの塊のようなグイドを見ていると、理解できないどころか失った童心が蘇ってくるようで、みょうに愛らしさが湧いてきちゃう。

社会奉仕としてグイドたちと関わり始め、その独特な気質にふりまわされるアルトゥーロも、一緒の時間を過ごすにつれて彼に柔らかな視線を送るようになるんですよね。その視線は、息子を見守るような優しさにも見えます。
ドライブ中の2人なんか親子感がスゴい。

「トスカーナの幸せレシピ」アルトゥーロのブレなさ

Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

良くも悪くも万人に分け隔てなく接するというアルトゥーロの姿勢は一貫しています。自立支援施設に通うアスペルガー症候群の若者たちにも変に気を遣うことなく、言いたいことをそのまま口に出すアルトゥーロ。本人に自覚のない語気の強さやむき出しの感情をぶつけてしまうところなど、しばしばアンナに注意されます。料理を通じてグイドとの関係を深めて行くけど、多分そのファクターがなかったらアルトゥーロは誰とも理解しあえなかったろうな…と思ってしまうくらいの不器用さ。

でも逆に言えば、普通に生きていたら縁がなかった人間とか気の合わなさそうな人間とも、ただひとつの事柄に関して共通することがあったという奇跡のようなもので関係を築き上げられるのは、メチャクチャ素敵だと思うんですよね。

序盤のアルトゥーロにとってのグイドは、大会なんて出る意味がないという言葉を真に受けて風呂場に閉じこもるし、かと思えば慰めの言葉に反応して嬉々とした表情を浮かべるし、それはもう完全につかみどころのないヤツ。だけど、味見して調合された食材をカンペキに当てる舌をもち、調理もなんなくこなすというグイドの類い稀なる才能を前にして「おっ?」となるんですよね。「料理に関しては頭一つ抜けている」という一点が、性質の全く異なる2人の壁を穿つ。この関係性がイイ。

物語が進んでいき、グイドのコミュニケーションにおける苦労や父の無理解による親子関係の溝などを知るアルトゥーロ。でも、決して過保護にはならないんですよね。グイドを異形のものとして見るかのような視線を向ける人たちからの心無い言動は、グサッとくるほど尖っています。が、アルトゥーロは冷静にその場を切り抜けていく。攻撃したものたちを痛めつけるようなことはしないんですね。
暴行罪でお縄にかけられたとは思えないほどに攻撃性のないアルトゥーロを見ると、グイドをごく普通の若者の一人として扱っていることが分かります。そこで過保護になったら奇怪の目で見る者たちとの立場がそう変わらないんじゃないかと無意識に理解している。

グイドのちょっと変わった性質・行動を前にして不寛容になる人たちをいなしつつも、彼をアシストするにとどめるアルトゥーロからは、「いや当然の権利だよね?」という言外の訴えを感じます。小さな盾にはなるけど決して槍にはならない姿勢、シビレる。

「トスカーナの幸せレシピ」展開はありきたり?

Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

アルトゥーロとグイドのキャラクター性は魅力的なんだけど、物語の展開はドラマティックさに欠けていて、退屈ではないけど強く印象に残ることもない、みたいな感じ。

凸凹コンビがお互いを補いながら色々な障害を乗り越え目標を成し遂げるというのがバディームービーの典型で、今作にもそういう要素は見られます。が、アルトゥーロとグイドは積極的に関わり合っているわけではないんですよね。
前述した通り、グイドのパーソナリティとそれに起因する問題に関して、アルトゥーロは見守りつつたまにアシストするくらい。その姿勢は間違っていないというか、アスペルガー症候群のなかでも個性の違った人間に対するアプローチとしての正解の一つだと思うし、積極的に当事者の心理に寄り添うアンナとの対比が色濃く出ることでアルトゥーロのキャラクターも立ちます。

じゃあ、もう一つの大切な要素である「料理」に関することであれば2人はもう少し積極的に関わるのかといえば、そうでもないんですよね。料理の面でグイドが天才すぎる。
序盤、グイドがスープの調合素材を当てるシーンを見て、「天才の舌を持つグイドも、調理方法は分からなくてアルトゥーロに手取り足取り教えてもらうんだろな!ワクワク」とその後の展開を期待していたんですが、調理シーンはほぼ描写されていないに等しく、アルトゥーロが教えを授けただろう描写も皆無。グイドはあれよあれよという間に大会の決勝まで進んで行くんですよね。アルトゥーロが具体的なアドバイスをする必要がないくらい、調理もカンペキだったという。

天才といえども何か欠けている点があって、それを埋めるためにアルトゥーロの元一流シェフとしての経験が活きる…という流れではなかったんですよね。アスペルガー症候群がもたらす人混みが苦手だとか比喩表現が理解できないことだとか、確かに悩ましい問題があるけど、それはアドバイスで解決できるものではない。ましてやアルトゥーロは精神科の先生なんかではなくて、元一流シェフですから、できることは限られています。
その元一流シェフとしてできるアドバイスも、料理に関して文字どおり天才だったグイドにはほとんど必要なかったという。

2人の関係が浅い印象になってしまったと同時に、アルトゥーロの元一流シェフという肩書き、もとい設定が空虚なものに感じました。

ドライブ中、グイドが「レシピにでてくる”適量”ってどのくらいなの?」と質問すると、アルトゥーロが「味見してそれを決めるのが料理人だ」と回答ならぬ回答をするシーンは良かったです。
こういった料理に関する話題で2人が盛り上がるシーンをもっと見たかったなー。

「トスカーナの幸せレシピ」感想のまとめ

Youtube「映画『トスカーナの幸せレシピ』予告編」より

アスペルガー症候群の若者をテーマに取り上げたのは目を引くところで、グイドの性質の独特さや、それが原因で不可抗力的に陥る孤独など、感情が揺さぶられるシーンがちりばめられています。が、それをアルトゥーロが理解していくというのはある意味約束されたストーリー展開なので、後半になるにつれ既視感が出てきたのも事実。
そんなストーリーに料理という味付けが加えられるとどんな方向に向かって行くのか期待していたけれど、正直ウーン…という感じ。2人の物語が始まるきっかけにはなったけど、関係を深める要素としての重要さはあったか?というと疑問符が残ります。料理の天才と元一流シェフの師弟的な絡みなどの内容を掘り下げてくれれば、2人の絆の強さがもっと強調できたのかなと思います。

バディムービーとして見たときの物足りなさはあるけれど、グイド役・ルイジ・フェデーレの奥深い演技や、アルトゥーロ役・ヴィニーチョ・マルキオーニのシェフ感あふれる容姿がキャラクター性を際立たせていて、自然に作品に入り込めるので、鑑賞後のこころの温まり具合は保証できます。

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